溜まっている分の2冊、W.H.ホジスン「夜の声」+S.クイン「悪魔の花嫁」

voicein the night 昨日も寒かったこともあり、怠け心が頭をもたげて自宅作業の開始が遅れてしまい。消化予定だった読書ネタが書けないままになってしまった。
 どうもここのところの中途半端な感じの忙しさが、後ろ向きベクトルを誘発している(とはいえ、誰のせいでもなく自分の中の問題であるが…。

 さて、さすがにここらで書かないと昨年の暮れのようなことになってしまう。実のところそれに以上の状態である。前回の読書ネタは一月以上前になっているではないか…。
 そういったことを反省しつつであるが、じっくり書いている時間と気力があるかどうかも問題だ。

 まずは、海洋恐怖小説のパイオニア、ウィリアム・H・ホジスン「夜の声」(創元推理文庫)である。以前から興味のある作家であったが、なかなかタイミングが合わず…であった。
 今回、仕事場近くの書店の棚を眺めている時にいい感じで視界に飛び込んできた、ということで新刊で購入。

 収録作は、海洋恐怖小説が7編と水にまつわる作品1編収録。
 「夜の声」は、一説には映画「マタンゴ」のモチーフになったといわれているらしい。ある夜、暗闇の中を近づくボートが、漕ぎ手は明かりを向けることを拒みながらも、食糧を要求する。そして、その「夜の声」の主が語った物語とは…。
 いや、いや映像が生まれる前のラジオ・ドラマのようである。闇に聴こえるその声は、読むもののイマジネーションを刺激する。

 「熱帯の恐怖」、これまた暗闇に聴こえる音が、イマジネーションをかき立てる。姿を観ることはないが、底なしの闇にうごめく巨大な海ヘビ、船室に閉じこもって男の体験する恐怖。

 「廃船の謎」は、サルガッソー海のような海藻が、はびこる海に閉じこめられた船。そしてもう一艘の船が出合った廃船とその船の間で原因不明の銃撃が起こる。
 やがてその原因はなんと無数の…。これ以上書くとネタバレです。これまた怖い。

 その他、行方を絶った恋人の乗る船を探しサルガッソー海を突き進み、恐怖に遭遇する「グレイケン号の発見」。不思議な光に包まれ浮かぶ石の船の正体は…「石の船」。カビで覆われた船と遭遇した船乗りたちの運命や如何に…かなり気持ち悪い「カビの船」。
 そして、ラブクラフトにも影響を与えたといわれるホジスンの一面を垣間見せる「ウドの島」、怪しい邪教を奉ずる島へやってきた船長と甲板員が遭遇したのは、げに恐ろしき邪教の儀式、平たい顔の半裸の女性に襲われ、さらに恐ろしい巨大生物が海の底から現われる…。

 そして他一編、あまり深く考えることなく、頭の中で自分なりのイメージを膨らませれば、いまほど明るくない夜を過ごした昔の人の恐怖が蘇るようだ。

devils bride ホジスンに引き続き、ウィアード・テイルズ誌で絶大なる人気を博したという作家シーベリイ・クインの怪奇探偵グランダン・シリーズの唯一の長編「悪魔の花嫁」(創元推理文庫)だ。
 これは先月発売のバリバリの新刊。エロティックな印象のカバーも鮮烈な一冊である。

 まあ、前評判にひかれて手に取ったわけではあるが…正直なところ「ウィアード・テイルズ」という言葉から来るラブクラフトなどのようなおどろおどろしい印象はない。
 作家本人の碩学を十分に折り込んだ、異文化と狂気とサイエンスが絡み合う謎解き冒険小説である。

 グランダンとそのワトスン役の医師トロウブリッジは、知人である花嫁が衆人環視の中で消失する事件に遭遇。花嫁の家に伝わるベルトとそれにまつわる伝説に振り回されるように、殺人・火災など事件が起こる。
 一時は取り戻された花嫁であったが、再び悪の手に落ちてしまう。不思議な毒薬・悪魔を信じる部族、当時の読者の想像を超えた世界が底には広がっていく。

 実のところカバーイラストに描かれた淫祠邪教の儀式も繰り広げられるが、思ったほどエロティックでもない、それに全体に冷静すぎるほど冷静なグランダンにやや気持ちがひいてしまう部分がないでもない。
 また、危機一髪のところで現われるのが、実は善玉だったりと、ちょっと都合よすぎたりもする。

 が、かといって楽しめないわけではない。思ったよりも次から次へと手に汗を握りながら展開するストーリーは、わかりやすくて、地底をのたうつラブクラフトよりも当時の読者のハートを掴んでいたのかも。
 あとがきによるとラブクラフトよりもウィアード・テイルズに掲載数が多いとのことで人気もあったらしい。

 立て続けの恐怖小説2作であったが、久しぶりの恐怖小説、理屈抜きで楽しませてもらった。

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