日影丈吉『真っ赤な子犬』(徳間文庫) 読了

 少し前に読了も書けていなかったもののその五、日影丈吉『真っ赤な子犬』(徳間文庫)。
 ここのところ結城・日影・笹沢・河野でまわしている感じになっている我が読書である。今回は日影丈吉。

 オリジナルは、昭和34年(1959)の桃源社版とのことで、1982年に徳間文庫化されたもの。
 生きる気力をなくした五ツ木守男が、自らのために用意した毒入りステーキ、それを元婚約者の父親である国務大臣が食べてしまった…というのが事件の始まり。
 関係者周辺に現れる赤い子犬とは一体…、さらに雪の中の軽井沢のホテルで五ツ木たちに関係する人物が殺される。

 ただ、この強烈な「赤い子犬」というタイトルのインパクトの割に、これまで読んだ氏の持ち味の幻想的でちょっとザワつくような雰囲気は、本書に期待するのは難しい。
 かといって物足りないかといえば、登場人物たちもなんとなくユーモラスで、会話も意外に軽妙で洒落ている。さらに日影氏のお得意の料理も少し織り込まれてちゃんと日影ミステリーとして愉しめる作品。

 お次は、青森でゲットの結城作品『ゴメス…』だ。

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結城昌治『炎の終り』(角川文庫)読了。

 少し前に読了も書けていなかったもののその四、結城昌治『炎の終り』(角川文庫)。
 くどいようだが、昭和期ミステリーにハマっている、特に結城昌治がお気に入りである。

 この『炎の終り』は、日本のハードボイルドの嚆矢ともいえる私立探偵真木シリーズの第3作で、最終作。
 これまで同様真木は、失踪人の捜索を依頼される、今回の依頼人は引退状態の元女優青柳峰子。そして対象者はその娘由利。
 由利はヌードモデルなど派手な振る舞いで早めに見つけることができるのであるが、それをきっかけに殺人事件が起こっていく。

 いつものように事件の背景には歪んだ欲望や複雑な人間関係がうずまき、悲しい愛に生きた女優とひとりの男の過去が浮かび上がる。
 真木はその渦の中をさながら高見から見つけるがごとく淡々と真相へ進んでいく。
 これでシリーズが終わってしまうのが実にもったいない。この先も十分展開できる余地はあったと思うが、著者は真木を書ききったと下のかも知れない。

 車の普及、映画・芸能、薬物…新しいライフスタイル?今となっては当たり前であったり失われたりの者たちに時代の香りを感じながら楽しませてもらっている。
 そうしているうちに次も読み終えたので、また残りは3冊と変わらず。

結城昌治『あるフィルムの背景 ミステリ短篇傑作選』(ちくま文庫) 読了

  少し前に読了も書けていなかったもののその三、結城昌治『あるフィルムの背景』(ちくま文庫)。
 なんというタイミング!ちくま文庫から日下三蔵氏の編集でマイ・ブーム結城昌治の短編集が11月に出ていた。
 表題作は昭和38年(1963)の発表、その後1970年代に本書第一部の7編とともに短編集として角川文庫から出版されたもの。
 本書はさらに角川文庫の『葬式紳士』収録の4編と『温情判事』の表題作を追加したお得?な新編集版。

 これまで読んできた長編も気に入っているのだが、本書に収められた作品は手元でスッと伸びるというか、食い込むというか…終了間近な平成にあってもまさしくハマっている。
 腰巻きにある通り「ハマりすぎて緊急刊行 昭和に書かれていた極上イヤミス見つけちゃいました」なのである。

 表題作は、ブルーフィルム(いまでいう裏ビデオ)の妻に似た出演者を見てしまった検察官がその裏を探って見たものは…その他、レイプに対する思わぬ形での復讐、ネグレクトされた少年の心の闇、DVから老いへ至るまで半生をかけた復讐、研究者の富と名声にかける欲、とにかくどの作品も「極上のイヤミス」。

 ブルーフィルムやバスの車掌、前の東京オリンピックといった流石に書かれた時代のアイテムなどに時代を感じさせるものはあるが、登場する人物たちの欲望や心の闇は、現代社会でも錆びることはない。
 「極上のイヤミス」に偽りなし。

 書けていないのもあと3冊、いつ追いつくか…

生島治郎『あの墓を掘れ』読了

 少し前に読了も書けていなかったもののその二、生島治郎『あの墓を掘れ』(春陽文庫)。
 この前の『霧に溶ける』と一緒に西荻の盛林堂書店の100円本として購入したもの。
 初出は昭和46年(1971)のハードボイルド、退職警官志田司郎シリーズの第二作。ちなみに第一作は『追いつめる』なのだが未読。

 ある夜、スナックで出会った少女マサコは、睡眠薬ですっかり出来上がっていた。
 翌日、富豪天野から失踪した娘真沙子の捜索を依頼される…という失踪人の捜索というハードボイルドの定石。
 しかし、真沙子は何者かに連れ去られ、水死体となって発見される。

 捜索対象が死んでも終わらない志田動き、やがて欲が絡んだ人間たちの醜い争いが浮かび上がってくる。
 ちょっとばかし2時間サスペンスな香りも漂わないでもない。志田に絡む政治家の娘が、以外に味があっていい。
 時代?とはいえこの春陽文庫の表紙は、2時間ドラマ以上にいただけない。

笹沢左保『霧に溶ける』(春陽文庫)読了。

 少し前に読了も書けていなかったもののその一、笹沢左保『霧に溶ける』(春陽文庫)。

 化粧品会社が主催の全国BG(ビューティーガール?)コンテストの最終候補にのこった5人の女性たち。
 しかし、最終選考が近づくと交通事故で入院、ガス中毒死、棚から落ちたテレビに頭を潰され死亡、あり得ない場所での窒息…。
 それらはすべてアリバイが成立し、密室であったりと捜査も困難に。

 ライバルが次々と脱落していく中、会社の社長と不倫関係中の静子だけが生き残る。

 最終候補の女性たちそれぞれが、何らか脛に傷もつ曲者ぞろいである意味魅力的である。
 そのうえ、1960年発表という時代背景の価値観や倫理観などが絡んでより興味深い。

 5人の間が”すくみ”状態とそれぞれの事件が不可能状態、多少の無理は、呑み込んで愉しむことがキモか…。
 しかし、春陽文庫のこのカバーは一体何を意味しているのか?中身と関係あるとは思えない。

 まだ、2冊書き残しあり。

今年も来た”このミス”の季節

 ここのところ地方行きが重なって読了本を書ききれていないのに、気がつけば今年もやってきた”このミス”、このミステリーがすごい!の季節。

 なんと2018年版は、最初の88年版から数えて30周年。それを記念して88年版をまるまる収録している。
 でも30年前からずっと付き合ってるので。あってもなくてもの企画。ランキングは海外編がアレばいいし…。

 それに、ここのところは、その年に出版されたものを読む事が少なくなっているしね。
 一番気にしているのは、「我社の隠し玉」、以前のように「バカミス」とか変化球な特集が欲しい。

 とはいえ、”季節もの”、”恒例”となっているので、腐れ縁はつづくのかなぁ。

結城昌治『公園には誰もいない』(講談社文庫)読了

 引き続き怒涛の昭和ミステリー、結城昌治『公園には誰もいない』(講談社文庫)読了。

 『暗い落日』に続く私立探偵真木シリーズの第2弾。
 駆け出しの女性シャンソン歌手・伶子が失踪、その捜査を母親から依頼される真木。

 今で言うライブハウスやジャズ喫茶を舞台に、店のマスター、マネージャー、バーテンダー、レコード会社のディレクターなどが絡む複雑な人間模様が浮かぶ。

 やがて真木は、軽井沢の別荘で伶子の死体を発見し、何者かに殴られ気絶する。
 さらにここに新たな人物が登場し、さらに複雑な方向へ…。

 初出は、1967年。もちろん長野新幹線などなし、今では考えられないほどの警察捜査の敷居の低さやプライバシーの危うさ、それが懐かしかったり、新鮮だったりでハマる。

 タイトルの『公園には誰もいない』は、伶子の歌う曲の歌詞、これが要所要所で流れ、文学的な香りを漂わせる。
 孤高というほど絶対的な印象は無いが、そこそこハードでいい感じ。

河野典生『殺意という名の家畜』(双葉文庫)読了

 昨日は、盛林堂さんに「ルーフォック・オルメスの事件簿」をピックアップしがてら、ひさしぶりに西荻方面の古書店を巡って来た。
 ただ前日の腹痛のこともあり、各店駆け足で…。まあ、何事もなく帰宅。

 その後、河野典生『殺意という名の家畜』(双葉文庫)を読み終える。
 売り出し中の犯罪小説家岡田晨一(私)のもとに以前一度だけ関係をもった女優?星村美智子から会いたいとの電話がかかってくる。
 それを断ったが、美智子は郵便受けにメモを残し失踪する。
 行きがかりから美智子を探すことになる私。やがて美智子の背景を探るうちに高松で起こった焼身心中事件にたどり着く。

 初出は1963年、新幹線開通前の東京〜高松間の宇高連絡船での移動や新しい音楽としてのジャズ、そして新しいメディアとしてのテレビなどなど、それも含めて興味深い。
 特に、オーネット・コールマンの「Lonly Women」が取り上げられるあたりが、この著者の持ち味?

 この時代の作品は前にも書いているが、時代背景なども想像しながら読めて、とても愉しい。
 次は、結城昌治だ。

鮎川哲也『翳ある墓標』(光文社文庫)読了

 本日の読了本は、鮎川哲也『翳ある墓標』(光文社文庫)、読み終えたのは昨晩で、引き続きの昭和ミステリー。

 鮎川哲也といえば、長編はドラマにもなっている鬼貫警部ものと星影龍三ものなのだが、本作はそのどちらでもないものが二作あるそうで、そのうちの一作がこれ。初出は1962年。

 トップ屋集団「メトロ取材グループ」の男女2人の記者がインタビューしたホステスが翌日死んで発見される。
 そのホステスの死を不審に思った女性記者映子は、その真相を追うのだが、しかしその彼女も無関係と思われる名古屋で殺される。

 そして、同僚の記者杉田とメトログループの面々が、真相を求めて西走東奔する。
 基本的にアリバイトリック破りの本格ミステリ。

 現在は使われない「トップ屋」や本格的なマイカー時代の到来一歩前の時代背景が興味深い。
 しかし、この時代の作品はやたら伊豆方面が関わってくるのも面白い。

 正直なところほんの少し強引な部分を感じないでもないが、地道な調べで少しづつ真相に迫る部分はいい。

 もう一作、異色短編「達也が嗤う」も収録。こちらの結末は、おそらく知る人ぞ知る驚きのもの。一気に読み終えた。

 引き続き同時期の作品へ突き進むのであった。

結城昌治『暗い落日』(講談社文庫)読了

 前の『細い赤い糸』に続き昭和ミステリー、結城昌治『暗い落日』(講談社文庫)読了。

 初出は1965年で講談社文庫は1991年に出た、この時期のものは現在本当にお手頃でゲットできる。そんな事情あって、しばらくこの方面へ進む予定。

 日本ハードボイルドの嚆矢の一つと言われる私立探偵真木シリーズの第一作。
 元警察官の真木は、田園調布の実業家磯村から行方不明の孫娘乃里子を探す依頼を受ける。
 乃里子は、元チンピラの恋人吉井がいたが、彼も行方がわからなくなっていた。

 真木が動き始めると、市川とつながるバーの女、そして市川の父親が殺される。その背後に乃里子と思われる女性が現れては消える。
 やがて、磯村家の背後に横たわる暗い闇が浮かび上がってくる。

 舞台となった高度成長期は、高揚感があったのかと想像していたが、本作にはそのイメージは感じられない。
 タイトルの暗い落日が、読むものの心にも染みる。

 金持ちの娘の失踪に端を発する物語は、ロス・マクドナルドの『ウィチャリー家の女』の日本版と言われていることは知られているらしい。
 著者は、そのトリックに不満をもって、本作を書いたとのことであるが、残念ながらそれを読んでいない。

 他の真木ものを読んでないため何とも言えないが、主人公のキャラクターの孤高感は、若干うすい。
 できれば早めに後の作品も読みたい。このあときっとボイルが進むことを期待している。