結城昌治 『罠の中』読了

 結城昌治の『罠の中』を昨晩読了。
 Amazonで入手したのが、1961年の初出、「新潮社 ポケット・ライブラリ」というポケミスみたいな判型のもので当時のお値段180円なり。巻末に松本清張『歪んだ複写』や佐野 洋『秘密パーティ』の広告が…。
 黄ばみはあるものの60年弱前とは思えない、きれいな状態で少しうれしい。
 60年代初期の作品で、長編3作目とのこと。

 罪を償った者たちの更生施設「新生会」の事業主である元警察官の矢次収造は、南方戦線のソロモンで戦った海軍陸戦隊の隊長だった。
 サブタイトルにある「刑余者更生会殺人事件」が示すようにこの矢次が経営する施設で事件が起こる。矢次は、補助金のピンはねをして私服を肥やす悪徳経営者なのであった。

 ある日、軍隊時代の部下であった森川耕作が借金の無心にやってくるが、心底ドケチの矢次は厳しく拒否するのであった。その直後、新生会の施設の柿の木でクビをくくって果てる森川。
 事件は、自殺として処理されるのだが、この後から矢次に対してヤマガミと名乗る男からゆすりが始まる。ネタは、終戦間際のソロモンで隊長の矢次と森川が瀕死の部下30名を見殺しにしたというものだった。
 もはや戦後ではなくなったはずではあるが、ここには戦争が影を落としている。
 矢次には、ヤマガミなる男に覚えはないが、根っからのケチと独善的な性格から追い込まれていく。
 それだけでなく、新生会で働く人物も癖が強〜いんじゃなやつばかりだし、妾のアキ等々なんとなく怪しい。ただひとりの味方?が事務員の頼りない野見六郎という始末。

 やがて第二の事件が起こる、矢次の長男啓一が絞殺されて発見される。どいつもこいつもアリバイがあるようでいて怪しい。色んな後ろめたさもあって夜も寝られなくなる矢次、追い打ちをかけるようにヤマガミからの電話がかかる。一体ヤマガミとは何者なのか?そして真犯人は…。

 物語の後半に入ってなんとなくコイツでは…と思わせる展開になってくるが、一応意外な人物の犯行であることが判明する。
 印象的なのは、エンディング一歩前までかわることのなかった矢次の独善的な態度がかわる最後の一文である。